広島工業大学 工学部建築工学科 主任・教授/地理情報システム学会 中国支部長
岩井哲 様
阪神大震災での被害分析をきっかけにGIS利用を開始した岩井氏。その後発生した災害や地震被害の分析研究に大いに役立てている。
お客様プロフィール
開校:1963年
所在地:〒731-5193 広島市佐伯区三宅2-1-1
TEL:082-921-3121(代表)
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1963年、世界遺産厳島を臨む地に開校した広島工業大学は、以来、「教育は愛なり」を建学の精神として大学教育に邁進している。1993年に国内で初となる環境学部、そして2006年の情報学部設置を経て、これまでに37,000人を数える卒業生を輩出してきた。教育方針「常に神と共に歩み 社会に奉仕する」のもと、社会と環境を思いやり、高い倫理感を持った技術者の育成に取り組んでいる。
導入の背景
岩井氏は、京都大学防災研究所を経て、1998年より広島工業大学に赴任。建築耐震構造や都市地震防災を専門分野とし、建築構造物の地震時挙動の把握、GISによる都市耐震化対策、地震災害の調査・分析などを研究テーマとしてきた。
1995年、阪神淡路大震災が発生した際、碓井照子氏(奈良大学)、亀田弘行氏(京都大学)らとともに地震被害マップを作成したことがきっかけとなり、GIS(地理情報システム)を使い始めるようになった。当時ミニコンピュータベースのGISを使い、都市施設の被害と復興の総合分析※を行った。ただ、使用ソフトの使い勝手に問題があったこともあり、岩井氏は 「GISは役には立つが操作が大変」という印象を抱いていた。
その後、地理情報システム学会の中国地方事務局が開設。事務局長に就任した岩井氏は、その活動を通じて竹崎嘉彦氏(中国書店)をはじめ、GISに関わっている人達とのネットワークを広げていった。
※西宮市を対象として、物理的な被災データ、都市基盤データ、自然データ、都市機能と緊急対応に関わるデータなどを収集してGIS上で統合し、ライフライン・建物被害の相互関連や地形・地質条件などが及ぼした影響、被害要因を調査。自治体や学会による建物被災度評価と建物撤去の実態との比較、避難所での避難者数の推移とライフラインの復旧過程との関連などの考察も行った。
システム選定のポイント
阪神大震災の被害調査後、使用したデータどうしをさらに色々と組み合わせ、被害状況の分析・研究に使えないかと考えたが、当時使用していたGISは大がかりで簡単に使用できるものではなかった。
そこで、手軽に使えるPCベースのGISソフトを希望し、以下の点を評価してSISを採用した。
- 既存のGISデータ資産を活かせる
- Microsoft Visual Basicを使って自由にカスタマイズできる
- サポートも含めインフォマティクスの対応が良い
運用
研究室では、SIS MapModellerネットワークライセンス(2ライセンス)を岩井氏と学生(10~15名のうち2~3名がGISを使用)とで共同利用している。地図については、ゼンリンの住宅地図データ(広島市周辺)を利用している。また、地図の重ね合わせを行なうなどで画面上に多数のデータが作成されていることがある。そういった状況でもスピーディな表示・処理は必須のため、SIS用のPCはできるだけ最新のものを割り当てている。
建築の耐震、地震防災を研究テーマとしている岩井氏にとって、どんな所でどんな被害が発生したかが非常に重要な意味を持つ。1999年の広島・呉土石流災害、2001年の芸予地震、2007年の能登半島地震発生の際にも、SISを利用して被害状況の調査・分析、被害分布図の作成を行ない、被害発生予測や震災の軽減策検討へつなげている。
現在も継続して、都市防災(地震防災)にテーマを絞った研究を進めている。(研究結果は、弊社主催の空間情報シンポジウムでも発表いただいたことがある。)
屋根被害状況と切土・盛土
切土・盛土、地震被害、卓越振動数の関係
導入効果
取り込んだ被害調査データをもとに被害分布図を作成し、半年~1年後に地盤、地形、地層、建物などの条件を加えることで、被害状況の分析、地震被害想定といったより深い災害研究につなげることができるうえ、研究結果を視覚的に見てわかりやすい資料として情報提供できるという点で、GISは便利で有効なツールである。
なお 、学生自身が自分達の研究において、こういうことを行いたいときはこんな操作をすればよいといった独自の操作手順書をまとめており、資産として次の研究に活かされている。
研究室でのGIS関連の卒業論文テーマを一部ではあるが以下に紹介する。
- GISを用いた建物被災情報の現地収集システムの構築
- 広島市地盤のデータベース化と立体的把握への応用
- 地盤ボーリングデータに基づく任意地層断面図の作成
- 平成13年芸予地震による丘陵造成地の木造住宅瓦屋根被害と地盤の常時微動特性
- 3D-GISによる丘陵造成地の盛土・切土区分と家屋の地震被害分析
- 新・旧都市計画図に基づく宅地の盛土・切土区分と家屋の地震被害分析
今後の展望
GISを使うとこんなことができるという実際の画面を見せると、「面白そう!」と興味を持つ学生は多いものの、学生達は元々建築学や力学が専門で、地理や情報・コンピュータについては専門外のため、いざソフトを使ってみると思うように操作できないという場面が往々にしてある。
地理学の専門知識がない学生でも、簡単に使い始められるようなマニュアルがあるとよいと思う。例えば、コマンドベースのマニュアルではなく、目的別の逆引きマニュアル(Tips集)があれば、より効率良く研究・解析の段階へ進むことができると思う。
また、研究指導においては、いきなりゴールを目指すのではなく、段階ごとに目標を定め、各段階で確実に結果を出しながら最終結果(研究成果)につなげていくことが重要だと思う。