GIS 事例

大阪市立大学 基礎科様の事例:独自のテキスト教材を利用した講義・演習を通じて、GISのプロ育成を目指す

大阪市立大学 大学院工学研究科 都市系専攻 鈴木広隆 様

大阪市立大学は、2002年度末にGISがインストールされた端末80台を図形科学演習室に設置。2003年度より、全学の基礎教育科目「図形科学Ⅰ」と工学部環境都市工学科の専門教育科目「地域環境情報処理演習」でGISを使った授業を開始した。インフォマティクスと共同制作のテキスト教材を利用した授業により、GISの知識や操作の習得だけでなく、専門分野の問題解決手段の1つとしてGISを活用できるレベルを目標にしている。

お客様プロフィール

開校:1880年
所在地:〒558-8585 大阪市住吉区杉本3-3-138
TEL:06-6605-2141
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「都市は大学とともに大学は都市とともに -都市を学問創造の場とし研究成果を市民生活に還元する『都市型総合大学』」をモットーとする大阪市立大学は、緑豊かな学園都市内に最先端の施設を擁し、快適な研究環境を提供している。そんな大阪市立大学の工学部は、空間に関する様々な分析やシミュレーションに、CAD/CG/GIS/オリジナルのプログラムを活用している。

導入の背景

「図形科学」は、投影法の理解とその習得を目的とする図法幾何学(図学)を基盤とし、それにコンピューターグラフィクスや図形解析を加えた学問分野の名称であり、ものづくりの基礎として多くの工学系学部の教養科目として位置付けられている。

大阪市立大学では、図形科学を単なる「設計・製図のための図の描き方を学ぶ場」ではなく、「高度情報化社会において適切な図を用いてコミュニケーションを行うためのスキル(デザイン言語)を習得する場」と位置付け、語学や情報処理と並ぶ重要なリテラシーとしている。

その上で、投影法の理解と作図技術を中心とした「図形科学Ⅰ」(手書きの作図中心)と、光・色の挙動と効果を理解した上で自由な形を創造する「図形科学Ⅱ」(コンピューターグラフィクスの演習中心、提出作品はこちら)という2科目の講義・演習を提供してきた。

しかし、適切に図表現を行うスキルを身に付けるには、利用する図形の特徴を定量的に理解する図形解析のセンスが不可欠である。また、特に建築・都市工学系の学生へ科目を提供していること、昨今の建築設計の場における仕様規定から性能規定への流れを考慮すると、感覚的デザインから分析的デザインへの変革は避けて通れない。

これらの点から、設計教育の基礎段階における分析的な思考訓練は重要であると考え、2003年度4月より図形科学教育の学生用端末にGISを導入し、図形科学教育に図形解析を組み込んだ。

一方、建設、都市計画、環境関連分野で貢献できる人材の育成にもGISの基礎知識が不可欠であるとして、専門教育科目「地域環境情報処理演習」でもGISの講義・演習を開始した

システム選定のポイント

  • 1つのパッケージにひととおりの機能が装備されている点
  • 図形科学演習室のCADシステムとの相性が良い点
  • ユーザーインタフェースがわかりやすい点

運用

80台のDOS/V互換ノートパソコンにSIS Map Modellerを導入し、学生の出欠管理、端末の稼動状況のチェック、教員用端末の画像配信、教材の配布/回収等に端末管理アプリケーションを利用している。

「図形科学Ⅰ」全14コマのうち、GISを用いた図形解析に3コマ使っているが、講義・演習ではGISの学習を主目的とせず、図形を分析するためのツールと位置付けている。しかし、GIS技術の今後のニーズの高さを考慮し、講義・演習の時間は短くても、履修者がGISの可能性についてある程度理解できることが望ましいと考えた。

そこで、図形分析の過程でGISの基本操作を中心に説明し、結果としてGISの機能を簡単に学習したことになるように授業を進めた。

授業内容

GIS授業は、工学部の建築学科、環境都市工学科、都市基盤工学科、情報工学科、応用物理学科、および生活科学部の居住環境学科を対象として開講しているが、履修者の情報リテラシーの習得状況には大きな差が見られた。

以下、基礎教育科目「図形科学Ⅰ」での講義と演習の内容について説明を行う。

第1週 「GISイントロダクション」

地理情報システムの概要、応用例、取り扱うデータの紹介

【課題】住宅地図の表示/非表示切り替え、拡大/縮小、表示位置切り替え

図1:表計算ソフトウェアのデータ管理とGISのデータ管理

専門が多岐にわたる履修者を対象としてGISを簡潔に理解させるため、GISを表計算ソフトウェアと関連付けた(図1)。双方とも情報管理分析用のアプリケーションだが、GISは数字/テキスト情報に加えて図形/地理情報も扱えると説明した。

その上で、図形/空間情報に数字/テキストが関連付けられている様子を述べ、属性情報の概念を説明した。その後、GISを用いた分析結果のサンプルを紹介した上で、ベクトルデータとラスタデータの違い、ベクトルデータの種類などを述べ、最後に住宅地図データを用いた演習を行った。

演習では、レイヤの表示/非表示の切り替え、拡大/縮小、表示位置の切り替えなどを行いながら、GISの基本操作を学んだ。また、この授業はコンピュータを使った一連の図形解析の最初の授業でもあるため、ログイン、基本的なコンピューターの操作などもあわせて学習した。

第2週 「形の複雑さを測る」

周長と面積を利用した図形の複雑さの評価

【課題】基本図形・行政界を用いた円形度の評価、主題図の作成

形の複雑さを測るために、円形度を利用した。まず、図形の頂点数、周長などの値の「複雑さの指標」としての可能性について検討し、これらの問題点に言及した上で、周長を面積の平方根で除したものの指標としての妥当性を述べた。次に、基本的な図形における値を解析的に求めたものを説明した後に、演習に移った。

演習では、図形を入力すると円形度の値をラベル表示する教材をあらかじめ準備しておき、学生に様々な形を入力させ、図形と円形度の関係、この指標の限界を学ばせた。さらに、この値を基にした図形の塗り分け、この値を高さとした図形の立ち上げといった主題図作成を行った(図2)。

教材を使った演習の後、大阪市の24区の行政界情報を使って同様の作業を行った。基本図形を使った演習と異なり、大阪市行政界を使った演習では、未加工の行政界情報を配布し、「属性値として円形度の式を登録する」、「属性値をラベル表示する主題図を作成する」、「その他、様々なスタイルの主題図を作成する」といった作業を学生自身が行った。

大阪市内でこの指標値が大きい形状の区がどこに存在するかを調べ、最後にGISを使って結果を表で確認し、統計量を求め、主題図で図形的に把握するだけではなく、数値的に把握することも重要であることを学ばせた。

第3週 「点の分布及び線分によるネットワークの特性を測る」

ボロノイ分割による点の分布の評価、最短経路検索

【課題】与えられた点の分布、行政界を基にした点の分布を用いたボロノイ図の作成と点の分布の評価、放射環状/格子状道路網・大阪市の道路網を用いた最短経路検索点の分布の特性を把握するため、点の分布を基にボロノイ図を作成し、ボロノイ多角形の面積のばらつきを見た。

また、線分によるネットワークの特性を把握するため、最短経路検索を行った。講義では、ボロノイ図の概念、ボロノイ図の用途、最短経路のルートなどについて説明を行った。

演習では、まずあらかじめ3種類の点の分布を基にボロノイ図まで作成しておいたものを配布し、レイヤの切り替えによりそれぞれのボロノイ図を表示させ、ボロノイ多角形の面積の散らばりを確認させた。これにより、一見同じようなランダムな分布でも、一様な分布と偏った分布が存在することを学ばせた。

次に、大阪市24区の行政界の教材を配布し、区の重心位置を点の分布と考えてボロノイ図を作成して、これと実際の行政界の重ね合わせを行った(図3)。

3種類の点の分布の課題では作り込んだ教材を配布し、レイヤの切り替えのみで点の分布とボロノイ図が表示できるようにしておいたが、大阪市行政界の課題では「各区の重心をとる」、「行政界を非表示とし、重心の点群の分布のみ表示する」、「重心の点群を用いてボロノイ図を作成する」、「行政界を再表示し、ボロノイ図と重ね合わせる」という一連のプロセスを学生自身が行った。

最短経路検索では、まず放射環状と格子状のネットワーク検索(図4)を行い、特に放射環状での始点と終点の取り方によって経路がどのように変化するかを確認させた。さらに、大阪市の道路網データを使って同様の検索を行った。

これら3コマの演習では、履修学生の情報リテラシーの習得状況に大きな差があったにもかかわらず、出席した学生は全員が課題を所定レベルまで達成できた。

図2:様々な形の入力と複雑さの値の表示

図3:区の重心によるボロノイ図と行政界の重ね合わせ

図4:格子状ネットワークおよび放射環状ネットワークにおける最短経路検索

導入効果

期末試験の際に実施している授業評価で、GISを使った授業について5段階評価をしてもらった。各評価に点数を割り当て平均点をだしたところ、計3回の講義・演習の評価は以下のようになった。

  • 面白かった  3.35~3.69
  • 分かりやすかった  3.49~3.68
  • 役に立つと思う  3.43~3.46
  • 人に勧めたいと思う  3.25~3.36

2003年に初めてGISを用いた図形解析を学んだ学生が、2006年4月に卒業論文を書くために研究室に配属になったため、研究テーマの選定や研究方法に図形解析習得の効果があらわれるのはこれからである。

しかし、これまでの年度でも、図形科学教育における図形解析の授業内容に関心を持った学生が、龍安寺の石庭の配石パターンによる趣とボロノイ図の関係を検討したり、街灯の配置パターンのボロノイ図による安全性・安心感の評価などの研究を始めていることから、一般教養科目としてGISを用いた図形解析を行うことが、学生の好奇心を大いに刺激していることが期待できる。

今後の課題

履修者の授業評価を学科別に分析すると、建築学科や居住環境学科などデザイン志向の専門分野の学生による図形解析の評価が相対的に低かった。今後は、分析よりもデザインを好む履修者の好奇心をも刺激するような教材を開発したい。

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