東北文化学園大学 科学技術学部 人間環境デザイン学科 専任講師 川村広則様
地域エネルギーを推計する研究報告のうち、GISを活用した研究事例は現在わずか1、2例。なかでも、冷暖房を中心とするエネルギー消費量の削減が重要な課題とされている東北地方においては皆無という状況である。東北文化学園大学科学技術学部人間環境デザイン学科では、GISを利用し、定量的/視覚的な視点から地域の特性や構造を理解して、エネルギー消費を軽減するシステムの策定を進めている。
お客様プロフィール
開校:1999年
所在地:〒981-8551 宮城県仙台市青葉区国見6丁目45-1
TEL:022-233-3310
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東北地方で唯一総合的なリハビリテーション学を修得できる教育機関、東北文化学園大学は、高齢社会に欠かせない「医療福祉」をはじめ、「総合政策」「科学技術」の3分野で21世紀社会を担う人材の育成を目指している一方、「東北トップレベルの総合学園」から「日本有数の新世紀型総合学園」へと、新たな歩みを始めている。
導入の背景
「地球温暖化に対する都市活動の影響を軽減し制御するには、様々な環境問題を都市全体で捉え管理するシステムの構築が有効である」という考えのもと、建物群のエネルギー消費量の実態把握/推計と、その軽減システムの策定を重要な課題としていた川村氏は、須藤諭氏(東北文化学園大学大学院教授)とともに、数年前より都市環境におけるエネルギー消費、特に建物のエネルギー消費量に重点を置いて調査研究を進めてきた。
その結果、東北地方は他の地方に比べてエネルギー消費削減を意識した設備システムの研究/導入が遅れていることが判明。これを機に、エネルギー消費量の調査研究がスタートした。「東北地方には、政令指定都市である仙台の他に、人口30万人を超える中核市が存在するため、都市全体としてエネルギー消費量を分析する必要がある。
これまで取り組んできた建物単体でのエネルギー消費量の分析を活かし、地域単位での状況を分析するには、全体を評価できるシステムの構築を検討しなくてはならない」と考えた川村氏は、その手段として、建物の用途、規模、エネルギー消費等を建物情報データベースとして分析できるGISの構築が有効と判断。
当初リモートセンシングの導入を検討していたが、土木/防災分野での分析にGISが利用されていることを知り、価格面でもリモートセンシングより低いこともあり、GISの導入を決定した。
運用
GIS建物データベースは、以下の3要素をベースに構築された。
- GISソフトウェア:SIS
- 地図(図形)データ:建物輪郭および位置情報が収録されている住宅地図データベース(ゼンリンZmap-TownⅡ)
- 基本属性(基本項目) :建物番号、名称、階数、面積、延床面性、用途、年間総エネルギー消費量、月別総エネルギー消費量、夏期冬期の時刻別冷暖房エネルギー消費量など)
電子・住宅地図を用いたベースマップ(基図)の作成
GIS建物データベースの構築手法
研究で必要な属性データの項目
仙台地域周辺 分析例
SIS上での操作画面例
東北地方6地域における地域エネルギー消費特性の評価
暖房エネルギー消費時刻別変動マップ[仙台駅周辺地域]
SISの特長
地図情報と建物のエネルギー消費量の分析をどう融合させて評価軸を考えるか」という課題を抱えていた川村氏。SISには以下のような特長があると評価する。
- 標準的なPC上でシステムを動作できるうえ、操作性が高く使いやすい。
- 電子地図を取り込む際、建物をベクターデータとして取り込むことができるため、建物エネルギー消費量を属性データとして入力できる。
- Microsoft AccessやExcelで作成したファイルをSISとリンクさせることができるため、データベースに蓄積した調査結果を容易にSISに取り込むことができる。
- 複数の建物用途(店舗、居住、学校、病院、宿泊など)について、さまざまなエネルギー消費状況(月別総エネルギー消費量、時刻別冷房/暖房エネルギー消費量など)を表示させることができる。
- 用途に応じて街区単位/メッシュ単位で調査結果を表示できる。
導入効果
「SISを利用することで、研究調査を、用途別のエネルギー消費量の違いを踏まえた建物評価、さらには地域全体における建物評価につなげることができた」と語る川村氏は、特に地域単位で状況を評価するにあたり、調査結果を街区単位/メッシュ単位で表示できる機能が役に立ったという。
たとえば、東北地方6県の主要都市を調査し、調査結果をメッシュ単位で表示することで、以下のような提案にまでつなげることができた。
- 地域冷暖房の導入の可能性
- 東北地方の都市におけるエネルギー供給システムのあり方
2008年以降は、学生と共同で、調査対象を県庁所在地以外にまで広げ、地域冷暖房の導入検討に関する調査研究を続けている。また、清掃工場からの排熱によるエネルギー量のシミュレーション研究も行い、排熱によるエネルギー供給が地域全体のエネルギー供給につながる可能性を見い出したという。
調査結果の表示については、従来Excelのリストをグラフにする程度であったが、SISを利用することで、地域的、時間的に広がりを持った比較調査結果をより視覚的にわかりやすく表現できるようになった。
今後の展開
川村氏は、研究の応用や学生への教育活動などにもSISを活用できると考えている。
調査の対象地域を広げていった場合、システム上で扱う地図領域も広がるため、地図の操作性が問題となってくるだろう。いずれは東北地方全域まで対象を広げて調査研究を進めたいし、さらに風力発電や太陽光発電からのエネルギーをどこにどう供給すれば有効利用できるか、といった研究にも発展させたい。
また、学生への教育活動では学内のハードウエアが整備されてきたこともあり、今後はより多くの学生が操作できるよう授業に組み込んで利用を促したい。(川村氏)