独立行政法人国立国語研究所 大西拓一郎 様
「方言情報は、言語情報であると同時に地理情報でもある。方言情報を地理情報として活用すれば、GISを通じて言語以外の地理情報と照合できる」 - 従来とは異なる観点から方言地理学を捉えている大西氏は、研究の基本ツールとしてGISを活用し、方言分布と言語以外の要因との関連性を分析し続けている。
お客様プロフィール
設置:1948年
所在地:〒190-8561 東京都立川市緑町10-2
TEL:042-540-4300
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国立国語研究所は、国語に関する総合的研究機関として1948年に設立されて以来、一貫して「国民の言語生活の充実、外国人に対する日本語教育の振興への寄与」を目的として活動を続けてきた。高度情報化・国際化が進む日本社会の中での現代日本語の多様な姿をとらえ、将来の日本語を考えるための研究・事業の成果は、社会の様々な分野で活用され、国民の言語生活の向上に役立っている。
導入の背景
方言地理学は、これまで方言の分布を地図上に表示することで、言語の歴史変遷を解明するものとして考えられてきた。これに対し、長年にわたり日本語方言学、方言地理学の研究に従事してきた大西氏は、方言地理学は歴史変遷だけでなく、方言分布と言語以外の要因(例:自然環境や人口分布など)との関連性の把握もその射程に含めた研究分野であるべきだと主張する。
従来、言語情報の配置模様を中心として研究されてきた言語地理学では、地図上に方言の分布を表示させた方言地図の作成にとどまっており、大西氏も方言地図作成ソフトの開発に努めていた。しかし、方言分布と他要因との関連性の分析を行なうには、複数の地図情報を同時にかつ明確に視覚化する必要があったため、GIS(地理情報システム)に着目し、2002年からシステムの使用を開始した。
システム選定のポイント
導入当初はSISとは別のシステムを使用していたが、以下の点を高く評価しSISへ乗り換えた。
- 多数の地図データを直接読み込めるうえ、地図表示が非常に速い
- 基本機能が充実しているため、追加で拡張製品を購入する必要がない
「膨大なデータを扱っても処理がスムーズで、地図の描画スピードも速い点に満足している」と大西氏は語る。
運用
大西氏は、SISのファイル構成やオーバーレイといった機能をフル活用し、方言地図と様々なデータ(標高・人口分布・世帯人数など)を重ね合わせることにより、方言分布と他要因との関連性を比較分析している(図1)。分析データを読み込む際には、外部データベースを使った作図機能を利用(図2)。また、論文等に掲載することを想定した分析結果表示には、主題図作成機能を利用している(図3)。
図5:「起きる」の活用と標高
図6:動詞の否定助動詞と標高
図7:父親への尊敬語と世帯人数(西日本)
図8:父親への尊敬語と世帯人数(東北)
図9:動詞の否定助動詞と富士川流域
今後の展望
方言分布の新たな全国調査を進める意向のある大西氏は、「GISを活用した研究を進めていくことで、方言学でこれまで当然とされてきた理論の証明にも着手でき、結果的に方言研究をより科学的な研究として位置付けることができる」とし、今後もSISを使ってさらに分析を進めていきたいとのことである。