GIS 事例

埼玉大学様の事例:景観に関する各種の調査研究にSISをフル活用

埼玉大学大学院 理工学研究科 准教授 深堀清隆様

埼玉県秩父地域をモデルに、道の風景をテーマにした地域づくりプロジェクトが、各種地域団体の連携のもと立ち上がった。この「秩父路魅力アッププロジェクト」の参加団体の1つとして、埼玉大学大学院理工学研究科都市基盤工学研究室では、地域のアクセスルートの景観検討をはじめ、様々な調査研究にSISを利用している。

お客様プロフィール

開校:1949年
所在地:〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保255
TEL:048-858-9549
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理工学研究科都市基盤工学研究室では、人々が生活する場としての地域環境の中で、環境の眺めである景観や、地域の文化的風景に着眼した研究を実施している。生活環境の形成の過程を歴史的な展開として探求する研究や、風景を眺めるときの知覚について実験的に解明する研究、地域の景観づくりを支援するための調査活動、システムづくりなど、幅広い活動を網羅している。

導入の背景

景観計画に関する様々な研究を行っている都市基盤工学研究室では、以前は景観の可視/不可視分析や景観計画などの支援システムをMicrosoft Visual Basicを使って独自に開発していた。

しかし、独自のシステム開発には多くの時間と労力を要する上、単一のシステムしか構築できないという問題点があった。また、機能拡張の必要が生じた場合には、システムを一から作り直さなければならず、その分時間が必要となるものの、システム構築への注力が研究評価に反映されるとは限らない点も悩みの種であった。

SISとの出会いは、ある企業との共同研究を行った際、その企業がSISを利用していたことがきっかけであった。標準で多くの機能を備えており、機能同士を組み合わせることで必要となる分析が実現できるという点を評価し、導入を決定した。

運用

道路景観計画支援システムに関する調査研究

都市基盤工学研究室は、平成18年度より「秩父路魅力アッププロジェクトチーム」(注1)の1員として参加し、景観に関わるデジタルデータの収集/管理/整備活用を担当。同プロジェクトを実例として、「GISを用いた道路景観計画支援システムに関する調査研究」をテーマにした研究に着手した。この研究にSISを利用したのである。

現状では、国内の各地域における景観マネジメントは、必ずしも体系化されたものではない。定量データにもとづく、客観的で説得力のある「景観整備方針」の立案を支援するしくみが求められている。

そこで、GISを利用した、道路の広域景観マネジメントを支援するための景観評価方法と、その評価方法を踏まえ、景観整備方針立案のための方法論を整備することを目的として研究を行っている。

具体的には、国道140号およびその沿線を対象に、詳細な実測調査やアンケート集計といった各地点の景観に関する様々な情報をSISに取り込み、集計/分析/視覚化を行っている。

(注1) 「秩父路魅力アッププロジェクトチーム」
秩父地域の道路を軸として秩父地域の景観づくり、環境づくり、観光振興を推進している組織。NPO団体、観光関係団体、国・県・市町、学識経験者などから構成されている。

  • GISの構成要素は以下の通りである。
  • 地図情報データ(数値地図50mメッシュ、数値地図25000、Zmap Town II
  • 道路景観要素データ(現況評価マップをGIS化)
  • 地域景観要素データ(ビューポイント、観光資源)
  • 可視/不可視データ
  • 地域景観アンケートデータ(プロジェクトチームにおける活動成果の活用)

最終的に対象路線を土地利用や地形別に9つのゾーンに分け、入力した要素、評価結果をもとに、ゾーンごとに分析、景観整備の優先度付け、整備方針の具体的提案などを行っている。調査研究に関与している学生は付属のマニュアルをもとに、自主的に操作を習得している。

可視領域内の仰俯角分布

可視領域における土地利用分布

山岳山頂からの被視頻度図

国道140号からの被視頻度図

その他の研究/プロジェクト

上記のほか、SISを活用して以下のような研究を行っている。

さいたま百景

さいたま市には全国的に認知されているような有名な風景は少ないが、歴史的な特徴のある景観が多いことを市民に理解してもらうため、また今後のまちづくりにも役立てるため、市民有志の委員会により「さいたま百景」というプロジェクトが発足し、研究室の学生も参加した。

良い風景だけでなく、問題のある風景も含めて、SIS上にプロットし、テーマごとに分類して、どこにどのような風景が残っているかを分析。景観まちづくりの基礎データとして構築している。

歴史的産業施設の映像データアーカイブス

古くから地域の発展を支えてきた産業施設を対象に映像データアーカイブスを構築している。これは産業施設の過去や現在の様子を映像の記録として保存し継承していくことを目的としている。現在対象としているのは埼玉県内の鉱山関連施設であるが、産業構造物や居住施設、特有の景観、古写真、現状の動画、図面、関係者の証言等を収集し、計700件以上のデータをSISに収録している。

システムの特徴としては代表的な映像や証言を複数レイヤに分けてルートマップ化し、重要な地点をいくつかの異なるテーマで巡りながら、この産業施設をめぐる人々の暮らしや地域に果たしてきた役割を理解できるようになっている。

秩父眺望体験マップ

秩父路魅力アッププロジェクトの一環として、山水画の「六遠」をテーマにした眺望体験マップを作成した。(六遠とは、郭煕や韓拙という中国の山水画家が考案した「高遠」「深遠」「平遠」「闊遠」「迷遠」「幽遠」の6 つの遠近法のことをいう。)

秩父地域の中で六遠に近い場所を探し出し、SIS で地図作成したものをイラストレータの協力のもとでデザインし、印刷物にして道の駅などで配布した。

導入効果

研究室では、これまで多種多様な研究/活動にSISを活用しているが、このように色々な研究のニーズに対応できる点をはじめ、SISのメリットとして以下の項目を挙げている。

  • 各種の地理情報をレイヤごとに管理できる
  • 多種多様な属性検索ができる
  • 条件を設定し、該当要素の分布を表示できる
  • 異なるレイヤ間においても、演算により複合的な条件を抽出できる(例:景観は良好だが、同時に、景観阻害要因が一定以上の密度で発生しているといった問題地点の抽出など)

今後の展望

今後は、SISを利用して以下のような展開をすることを検討している。

収録された情報の公開と共有

データを保管するだけでなく、わかりやすく提供できるシステムにしたい。SISのデータをWeb公開したいが、閲覧者に一定の制限を設けることが必要なため、まずは運用ルールを検討することが必要であるとしている。

景観マネジメント支援システムの拡張

景観法の施行により、今後は全国各地で景観マネジメントを考えていく必要が出てきた。それに伴い、取り込んだデータの中から景観に関するファクタを自動で判断/分析し、必要な情報を出力するような景観マネジメント支援システムにまで拡張したい考えである。

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