Case28.想いを伝えるプレゼンテーションとそれを支える
制作体制の構築
積水ハウス株式会社 設計部
設計システム室 主任 高見昌利氏
2010年4月、建築CGパースコンテスト「Piranesi & MicroGDSアワード2010」の結果が発表された。約100点もの応募作品を勝ち抜きグランプリに輝いたのは、積水ハウス株式会社の作品である。しかもそのグランプリ作品は、同社が実務で作成したパースをそのまま応募したもの。つまり、同社では大賞レベルのプレゼンを日常的に行なっているのである。どのようなシステ厶がこの高品質な制作を可能にしているのか。--同社設計システム室の高見昌利氏に伺った。
「想い」を伝え、コミュニケーションを育てるために
「今回グランプリを獲得した作品は、集合住宅の中庭を描いたパースです。これは日常業務のなかでお客様へのプレゼンテーションとして、京都の営業所からの依頼で制作した提案資料です。それだけに関係者の感動は大きく、皆が非常に喜んでいます。グランプリに選ばれるような質の高いパースを日々お客様にお届けできている、ということですから……。恥ずかしくないものを、お客様にお出しできているな、と。」高見氏は笑顔でそう語る。同氏が所属する設計システ厶室は、積水ハウスの各営業拠点から依頼を受け、プレゼンテーション用の建築パースやアニメーション、ウォークスルー等の制作を請け負う制作部隊としての機能を持つ。もちろん同社では、早くから各拠点に営業マンでも簡単に入力できる3次元CADやPiranesi、CGソフト等を配備。これらを連携させて、営業マンや展示場の社員がスピーディにプランを作り、パースやウォークスルー制作にも連携できるシステ厶を造り上げてきた。だが、近年あえてそれとは別に、独立したプレゼンテーション制作部門を創設したのである。
「各営業所でプレゼン用のパースなどを作る場合、制作も営業マンや展示場スタッフが行うので、どうしても時間に追われます。しかも、建築やデザインの専門家ではありませんから、中身の濃い提案となりにくいのが現実です。もちろん頑張って作り込む営業マンもいますが、ややもすれば画一的なものになったり、作り手の一方的な想いが前面に出てしまいがちです。住まいへの想いを十分伝えきれない場合も多く、これまで大きな課題でした。想いをきちんと伝え、そこからコミュニケーションを育てるのが、プレゼンの最大の目的なのですから。」この課題を解決するため、外部の制作会社などの協力も得て設置されたのが、高見氏が所属する設計システ厶室の制作部門なのだ。この設計システ厶室のクリエイティヴな原動力は、各営業所で営業マンが入力した、提案プランのデータがベースになる。それに加えて“どんなプレゼンテーションがしたい”のか、詳しい依頼内容を書き込んだ依頼書が、参考のためのイメージ画像や図面等と共に届けられる。これらを受けて制作スタッフは依頼内容を確認。表現内容や納期を調整するなど、念入りにやり取りを行った上で制作を開始するのである。
「想い」+Piranesi+技術で作ったグランプリ作品
「この制作体制で、私たちが最も重視しているのが、各営業所から依頼が届いた時のヒアリングやコンサルティングです。お客様はどのような方で、その方にどんな想いを伝えたいのか--バックヤードにいる私たちが、営業マンを通じてそれをどれだけ的確に捉え、理解し、それにフィットした提案を造れるかが一番のポイントなのです。」単純に依頼書の内容通りのものを造るなら短時間でできる。だが、それでは綺麗なだけのプレゼンテーションになってしまうから、たとえ手間がかかっても詳細なヒアリングが欠かせないのだ。お客様の家族構成、趣味、こだわり、提案する設計のポイント等々について、営業マンとキャッチボールを重ねながらプレゼン内容をじっくり煮詰めていくのである。
「でも中には、依頼書にぎっしり細かい指示が記された案件もありますよ。今回のグランプリ受賞作品もその1つで、最初から非常に具体的な指示があったんです。」高見氏の言葉通り、今回のグランプリ作品に関する営業マンの指示はきわめて具体的かつ明確なものだった。たとえば“お客様は和風モダンにこだわりがあります。本格和風ではなく白と黒のツートン外壁に丸窓といったモダン和風。植栽は竹など和風に合う木で、松や苔などを使う伝統イメージではなくお洒落な現代和風”といった調子で、参考の写真も多数添付されていた。

「石庭部分についても“白や薄いグレーの玉砂利を敷き、竹箒で掃いたような模様を”とあったので、参考写真の通り箒で掃いたような加工を施しました。また中庭に置いた椅子も“シンプルな背凭れなしの石等の椅子をこの位置に”と非常に明確で……。これだけ具体的な指示があり、参考写真が用意されていれば作業は難しくありません。Piranesiの表現力と当室制作部門の技術があれば、イメージ通りのパースが作れるのです。もちろんここまで具体的な指示は少ないですが、だからこそヒアリングが重要になるのです。」
加えて、建築のプロではない施主にとって、平面図からプランの空間を想像するのは困難なことだから、ビジュアライゼーション自体にもさまざまに工夫が必要となる。たとえば上下階の関係が知りたいという施主には、天井が透けて見えるよう加工し、吹き抜け空間を見せるなど、“見せかた”にもさまざまな工夫を施していく。最近では光や風の環境シミュレーションを動画で見せたり、四季折々のパースを加工するなど、施主のニーズに合わせ、提案に合わせてPiranesiなどのソフトを駆使し多彩に工夫している。
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「成約に結びつく」プレゼンテーションのために
「当然のことですが、このような制作体制を安定して維持していくには、社内向けの活動も重要になります。同様の体制で展開している会社はどこでも同じだと思いますが、特に費用対効果を常に問われるのです。これに的確に応えられるようにするのも、私たちにとって重要なミッションとなります。」そこで最も問題になるのが、手間をかけ時間をかけて行ったプレゼンテーションが「実際にどれだけ成約に結びついたか」なのは言うまでもない。そこで高見氏は約1年間にわたり、設計システ厶室で制作した全プレゼンテーション案件に関して詳細な追跡調査を行い、それらが成約に結びついたか否か--プレゼンテーションによる成約への貢献度を数値化していったのだ。
「1年にわたり調査した結果としては、当室でプレゼンを行った全体の約40%が成約に結びついていました。加えて“商談中”という答えも30%ほどあったので、ここからも当然幾つかは成約が出てくるでしょうから、営業の歩留まり等と考え合わせれば、プレゼンテーションの貢献度としては十分満足すべき成果と言えるでしょう。」また、同時に調査した「プレゼンを受けたお客様の満足度」に関しても予想以上の好結果だった。すなわち、お客様の反応は「たいへん良い」と「良い」合せて95%以上と非常に高く、しかも活用場面としては「契約のクロージング」や「他社競合対策」「初期プラン提案」など、営業活動において非常に重要なポイントで活用されているということが、具体的な事実として確認されたのである。このように、さまざまな試行錯誤の末にたどり着いた制作体制が期待通りの効果を上げ、現場からも支持されていることは、高見氏ら設計システ厶室のスタッフにとって大きな励みとなった。だが、既に彼らの目は「その先」にまで向けられている。
「時代の変化やお客様のニーズに合せ、私たちの制作スタイルも進歩していかなければなりません。実際、Piranesiを始めCADやCGツールは進化し続けており、私たちの作業が“より速く、より美しく”なっていくのは当然でしょう。ただ、どれほど制作スタイルや表現手法が変化しても、設計システム室のクリエイティヴの基本だけは変わりません。すなわちお客様のニーズに応え、私たちの住まいへの想いを伝えること、そしてそこからコミュニケーションを創りだすこと。これからも、それを大事にしながら取り組んでいきたいですね。」
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