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宮城県仙台市様の事例:東日本大震災から11年を経て ーGIS技術を用いて行政職員がすべきことー

仙台市では「:D-Sendai デジタルでみんなワクワクスマートシティ」としてDX推進に取り組んでいます。道路管理課においても、GIS構築に民間企業も巻き込んだデジタル化の体制を実現しました。さらには運用にあたっての組織作り、市内の各種経済活動とGISの関わり、東日本大震災を踏まえたBCPについて話していただきました。(本記事は地方自治情報化推進フェア2022でご講演いただいた内容です。)

お客様プロフィール

人口:1,099,547人(令和4年(2022年) 11月現在)
世帯数:540,230世帯(令和4年(2022年) 11月現在)
面積:785.8 km²
所在地:〒980-8671宮城県仙台市青葉区国分町3丁目7−1
職員数:14,651名(令和3年(2021年)4月現在)

仙台市ホームページ

 

東北地方で唯一の政令指定都市である仙台市は、109万人の人口を擁し、首都圏からの良好なアクセスもあいまって、周辺市町村を含めて約150万人の仙台都市圏を形成し、東北地方の商業の中心となっています。大都市でありながら、自然と調和した「杜の都」としても知られているほか、仙台市及びその近郊には大学等の教育機関が豊富にあり、「学都」として有名です。

仙台市建設局道路部道路管理課 岩渕伸様

道路管理課での業務 

仙台市建設局道路部道路管理課では住民の方向けに道路台帳を管理しています。当初は紙図面でしたが、1999年から約3年かけ台帳をデジタル化し、スタンドアローンベースの道路台帳システムの運用開始後、2019年4月よりクラウドでの運用に切り替えました。現在、出先機関、事務所などが共有して使っています。道路台帳調書では幅員や延長、供用の開始機関や占用物件、境界杭などの情報を管理しています。システム上では地形図や住基情報による住宅地図等をレイヤーで表示することができます。また、境界確定図は個人情報が多く含まれているため別で保存しています。他自治体でも一般的にこのように運用されていると思います。

システム構成

境界杭写真 の管理 

「三輪」による安定運用

クラウドでの運用にあたっては、仙台市、地元業者、GISエンジン GeoCloudの開発業者の3者でアライアンスを組んでいます。地元業者である秋元技術コンサルタンツは、市内の状況について職員よりも詳しく、機動性抜群に活躍してもらっています。GISの開発業者である川崎市にあるインフォマティクスには、GISに関わる内容に迅速に対応してもらっています。仙台市も含めてこの三者で、定期的に顔を合わせ、費用対効果を考慮しながら、行政課題の解決のため議論しています。自治体職員は異動も多いですが、 会議に参加することで、地に足のついた話がすることができるようになってきました。 最近の業務では、立体交差箇所の高さ制限情報を2週間くらいでシステムに落とし込むことができました。
この三者がちょうど三輪車の「三輪」のように、共に動くことで安定・迅速で運用がうまくいっていると感じています。
 

立体交差にある箇所にアイコンが表示される

  東日本大震災について 

2011年3月11日の東日本大震災では市内に津波による道路陥没などの被害が多くありました。市職員も災害時の非常態勢に移行する中、共用地を使用した仮設住宅の立地や、災害ゴミの一時保管場所の調整など、GISで可視情報として所有していたことが役立ちました。災害直後は停電のためパソコンが起動せず、紙図面を使わざるを得ない状況でしたが、クラウドにしておけば、例えば東京でデータ確認できるなど、BCP上有用だと感じています。 

東日本大震災 仙台市の様子 

災害発生時の仕組みイメージ 

 民間主導、公連携の関係 

宮城県仙台市泉区にある「泉パークタウン」は大手不動産会社と大手建設会社等複数社による日本最大規模の民間宅地開発ですが、業者の方にもデータを提供してもらっています。デジタル化のためには、行政負担ではなく、デベロッパーと協力してデータ蓄積していく必要性もあると感じています。   

泉パークタウン 


泉パークタウン6期 造成状況(令和3年6月現在) 

 人材育成について 

道路管理課では、GISの利用者や各社の要望に答えるため、人材育成や組織のスキル・モチベーション向上にも取り組んでいます。産官学の連携として、地元にある東北工業大学の大学の施設を活用し、窓口対応のために職員の学び直し、スキル向上などの研修を行っています。大学側としてはGIS実務者の運用、活用を見ることができるというメリットがあります。GISを使える人材を増やすことでより新たな提案ができるほか、結果としてエンドユーザーとなる住民へフィードバックできると感じています
また、 市の20代の若手職員には土木部技術研究発表会で発表をしてもらい、職員の自発的行動変容を促すことができたと思います。ただGISを構築して終わりではなく、活用し、今後数十年後も行政の主となる職員を育てていきたいと考えています。
 

東北工業大学での研修の様子 

 経済活動 

GISをベースに現況図のみWebサイトで公開していますが、実際には地元企業よりも東京近郊の企業からの引き合いが多いです。具体的には 空家活用、リモートワークでの2拠点居住、相続、売買、再開発 などでの問い合わせですが、道路台帳にある情報は不動産や固定資産評価、売買、境界確定などに直結するものなので、経済活動に連動していると感じています。 

GISをベースに現況図だけをホームページで公開 

 オリンピック2020では安全な大会運営に貢献 

2021年に開催された東京オリンピック2020では、サッカーの試合が宮城県総合運動公園宮城スタジアム(宮城県利府町)にて有観客で10試合行われました。市では試合前は選手、大会関係者、VIP、パーク&ライドのシャトルバスなどの輸送手配、試合当日は24時間体制で情報連絡体制の構築(各区役所や緊急業者とのバックアップ) を行いました。職員が常駐して道路台帳を活用し、宮城県警やNEXCO等の各道路管理者と安全な道路ルートを確保し、問合せにも対応、安全な大会の運営に寄与することができました。 

宮城県総合運動公園宮城スタジアム(宮城県利府町)

GIS道路台帳を活用し、問合せ対応や安全な大会の運営に寄与 

大会の無事終了により、オリパラ組織委員会 より仙台市へ大会記念ボールの進呈 

 

みちのくi-Construction 奨励賞の受賞 

本取り組みは 、ICT導入で建設生産システム全体の生産性向上を目指して国土交通省がすすめているi-Constructionにおいて、令和3年度にみちのくi-Construction奨励賞を受賞しました。この賞にエントリーした狙いは、行政情報の記録を「活用」へと移行させ、仙台から東北各地域へICT化を底上げし、普及啓発したかったこと、また事務職・技術職含めて行政DX化の雰囲気を醸成し、データ化してひと安心という状況から脱却したいという思いがあったためです。 

みちのくi-Construction奨励賞を受賞 

取り組みの概要

最後に 

道路台帳GISでは道路に関する基礎資料を管理するだけでなく、総務省での地方交付税算定資料として説明しやすい資料がすぐできるなど、各方面で広く利用価値があります。  
最後になりますが、業者から購入したシステムをそのまま使うのではなく、職員(行政)がそれを使って何ができるかを考えたい思いがあります。
システムは供給側(行政)とシステムの需要側(市民)との思い違いもありえます。システム担当者として、システムのスピード、安定性、データ蓄積を図ることはもちろん、 それを使う技術を継承し、技術者を育成し、 適宜、技術支援・提案いただく良好なパートナー関係を築くことが、住民や企業の方々のメリット最大化につながると考えています。
 

記載されている会社名、製品名は各社の登録商標または商標です。
本記事は2022年11月に地方自治情報化推進フェア2022でご講演いただいた内容を書き起こしたものです。閲覧時には変更されている場合がありますのでご了承ください。

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